やさしいベッドで半分死にたい【完】
プールの脱衣所として使われていたらしい場を抜ければ、リノベーションされた大浴場がある。私以外には誰一人存在しないのに、しっかりとお湯が張られていた。誰かが管理している形跡が残っている。
もしかすると、私と花岡しかいないように見せていて、誰かがこの施設を清潔に保つために働いているのかもしれない。
考えても仕方のないことを思っていた。
お風呂に連れてこられる前に、紺色のジャージと白いティシャツを渡された。お礼を告げて、脱衣所で広げてみれば、中にこっそりとインナーが挟まれていた。
まさか花岡が用意したのだろうかと一瞬勘繰って、どう考えてもこの施設を運営している誰かの配慮だと気づく。
誰かに迷惑をかけてしまっていることは明白で、さらに言うと、一番リスクを負っているのは花岡だ。湯船に浸かりながら、白い天井を見上げている。いろんなことが散らばって、収拾がつかなくなった。
「はなおかさん、が、NAOさん、で……」
自殺を疑って、私の家まで駆けつけてくれた。眠っていた私を抱き起して、大切に包んでくれた。
「ここは、花岡さんの、故郷で」
つぶやいているのか、いないのか。わからない世界で一人、口を開いていた。