やさしいベッドで半分死にたい【完】
長時間の練習には耐えられない。もちろん、演奏会を行うのはもってのほかだ。
現状では治す技術もない。経過を観察するしかない。
申し訳のなさそうな白衣の男性に頭を下げて、白い箱から抜け出した。
明言を避けたところで、ショッキングな話題はすぐに世間に広がってしまった。神童の悲劇とか、散々な言われようだったことを知っている。すべてから、花岡は遠ざけようとしていただろう。
あの日の花岡の言葉が、何度でも蘇ってくる。
『一緒に行きますよ』
差し伸べられた手の温かさで、ようやく立ち上がった。
けれど、私が花岡の大きな手を取ることは、なかった。
このいばらの道へ、真面目なマネージャーを巻き込むわけにはいかないとも思ったし、プライドのような何かでもあったのかもしれない。
そう思っていたくせに結局、花岡に救われてしまった。
作曲家としての生き方に身を投じて、作り上げることの難しさを知った。
意向に沿うことの難解さや、伝えきれない己のふがいなさに突き刺さって、何度かすべてを投げ出したくなった。そのたびに、あの日の花岡の顔が浮かんできた。
夢に現れる男は、いつも眉を顰めて私の首を絞めていた。現実の花岡は、絶対にそんなことをする人ではない。