やさしいベッドで半分死にたい【完】
いつも私のふがいない事情の後処理に追われている人だった。だから、なじられたい願望が突出して夢に現れていたのかもしれない。


考えすぎてしまった。


花岡は、彼以外のことを忘れてしまえと言っていた。これではかえって、さまざまなことを思い返してしまっている。

父と母は、私の指が壊れてしまったとき、ウィーンに帰ってきたら? とメールを送ってきていた。

もうわからない。私に帰る場所なんてあっただろうか。

ひどく遠い。




髪の毛を乾かして廊下へ出れば、同じジャージを着ている後姿が見えた。耳に携帯を当てている。はじめて連絡を取っているところを見た。

ぼうっと見つめていれば、気配に気づいたらしい花岡が振り返ってすぐに携帯をポケットに突っ込んだ。

きっとこの学校指定のジャージなのだろう。"花岡"と胸に刺しゅうされている。少し笑えてしまった。まるで同じ学校の生徒になってしまったみたいだ。


ゆっくりとこちらに歩いてきた人から、ふんわりと私が使ったものと同じシャンプーの香りが流れてきた。ようやく、同じ場で一夜を過ごすことになるのだと理解する。不可思議な気分だった。うまくこの感情の動きを形容できない。


「どうした」


やさしい囁きに首を振った。なんでもないと意味を込めて見つめれば、じっとのぞき込んできた花岡が「そうか」と囁いて、手を差し伸べる。
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