やさしいベッドで半分死にたい【完】
指が動かないことも、もし精神的な要因が大きいのなら、治せる余地があるのかもしれない。行ってみたらどうだろうかと、冬の湖のような、なだらかで、ひんやりした声に提案された。

紹介状を引っ張り出して、勧められたクリニックの門をたたいた。予約は3か月先までいっぱいなのだと言われたけれど、紹介者の名前を告げるとすぐにでもと予約をショートカットできた。

そういう力を使ってまで、私を守ろうとしてくれていた。気づくのに、あまりにも時間をかけすぎていた。

今度こそ期待に応えようと、なおさら必死になった。それがただしいやり方だったのか。


聴力を失ってしまった私には、答えがわからない。


ぱらぱらと捲っているうちに、白紙のページまで運ばれてしまった。何もない紙と向き合うとき、私はなぜか強迫観念に駆られてしまう。


“書かなければ”


ほとんど衝動的に、立てられていたペンを手に取っていた。


『なんか違うんです』

『もう少し、ポップな感じで』

『言いたいことがうまく伝わってないですね』


いくつかの言葉が頭に回って、ペン先のインクが滲んでくる。よいと思うものが何なのか、果たして、私は、掴んでいただろうか。

それすらも怪しい。
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