やさしいベッドで半分死にたい【完】
「花岡さんは、何がお好きなんですか」
「さあ」
「え、ずるいです。私だけ知られているなんて」
「……ポップスなら、弟が好きなアーティストは聴いた」
「え? 弟さんがいるんですか」
「ああ。双子の」
想像して、また笑ってしまった。まさか、花岡さんが二人も存在しているとは思わない。一体どんな人だろう。二人して真顔で声を掛け合ったりしているのだろうか。
「不名誉な想像をされてる気がするんだが」
「してません。断じて。ただ、どんなふうにお話しされているのか、気になって。結構仲良しそうですね」
焦って言葉を繰り出したら、耳元に細やかな笑い声が響いた。図星だったことはばれているのだろう。
気にせずに胸に耳をこすりつけて、返事を待っていた。
「そうだな。悪くはない。好きなポップスは、そんなもんだ」
「ふふ、じゃあクラシックは?」
腕の中から顔を見上げてみて、ぐちゃぐちゃと髪を乱されてしまう。黒い視界の中で、花岡が笑っているように見えた。
「(お前が弾いた曲だよ、ばぁか)」
不明瞭な視界のまま、花岡の顔が、私の耳元に近づく。
何を吹き込んでくれるのだろう。もう、少し前までのくるしさは、綺麗に消えてくれているような気がした。花岡は、何気ない気遣いができる人だと思う。