やさしいベッドで半分死にたい【完】
「しばらく音のことは考えるな、破ったら仕置きだ」
思わずきょとんとしてしまった。首を傾げれば、もう一度髪を乱されてしまう。きっとぐしゃぐしゃだろう。机の上に置き去りにしていた紙を奪った人が、丁寧に四つ折りにして、ズボンのポケットに引き込んでしまった。
「これは没収」
まるでどこかの先生みたいだ。
同じくノートを強奪した誘拐犯かつ先生のような花岡が、笑いながら私の手を引いた。
「それってどんな痛いことですか?」
真面目に聞いたら、花岡の唇が半開きになった。「はあ?」とでも音が出ていそうだ。
もちろん、今の精神状態で作曲を続けたとしても何一つ生まれないことは分かっている。わかっているのに、逃れられないから呪縛だ。
心底呆れたような人が、私の指先に触れていた指先をぎゅっと引いた。
逆らうことなく近づいて、耳を貸してみる。
「訊くなよ。破らなきゃいいんだろ」
至極まっとうな回答に苦笑して、ちらりとすぐ近くの瞳を見つめた。綺麗な光だと思う。
「そう、ですけど……」
「なんかエロいことされるとか、そういう考えにはなんねえの?」
「はい?」
「なんでもねえよ」
どこか花岡から飛び出したとは思えないような声が鳴った。考える間もなくまた髪を乱されて、呆然としている。