やさしいベッドで半分死にたい【完】
私の様子を見た男が、苦笑してから、もう一つ囁いてくれる。


「とにかくもう考えんな。嘘ついたらすぐわかるからな」

「ええ? でも、花岡さんも、メールのこと、秘密にしていたじゃないですか」

「……じゃあ、今日は一切嘘を言わない」


真っ向から勝負を挑んでくる。まぶしい人が、もう一度、思い出させるように「俺だけ考えてろ」と言った。

すべてから連れ出してくれる。


「ほら、飯いくぞ」


有無を言わせず歩き出した人の後ろに続いて、高校生のジャージ姿で歩いてみる。こうして女の子と一緒に、手をつないで歩いたことがあったのだろうか。あったのだろうなと思ってしまう。

花岡の後姿は、今日も美しく凛々しい。


振り返った花岡は、いつものように色のない表情を作っていた気がする。それでも、その内側に、どれだけの愛が眠っているのか知ってしまった。やさしい熱で、すべてがゆるされてしまう気がする。

逃げ出す勇気のような何かを囁いてくれている気がする。


にまにまと笑っている私を見た花岡が、仕方のない人間を眺めるような表情を作ってしまう。

大切にしてくれているのだと知るには、十分な瞳だった。たしかに、花岡は、嘘をつかない人なのかもしれない。


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