やさしいベッドで半分死にたい【完】
「いただき、ます」
にこにこと擬音がついてしまいそうなくらいに笑顔で見つめられている。些か居心地が悪いまま、茶碗に手を添えた。あたたかいご飯は、きっと炊きたてなのだろう。
どうぞとか、それらしいことを言われていることには間違いなかった。花岡の顔をそっと見つめてみれば、すでに箸を進めている。
何かを話しているのはわかるけれど、やはり内容は不明だ。花岡が一つを話す間に、おばあさんが十を話しつくしているような間隔だった。
『育ての親の家に行く』と簡潔に告げられて、当然のように車の助手席に押し込まれた。たどり着いたのはほんの数分後で、不用心にも鍵のかかっていない引き戸を開けた花岡のあとに続いて入り込んだ。
どこか懐かしい匂いがする。一度も嗅いだことがないはずなのに、ずっとこの場所にいたような気にさせられる香りだった。
中から出てきたおばあさんは、花岡を見て、私を見て、最後に私と花岡の手がしっかりと繋がれているのを見てから、とてもうれしそうに微笑んでいた。
間違いなく、よくない勘違いを生んでしまった気がして振りほどこうとしたら、今度は花岡にぎろりと睨まれてしまった。