やさしいベッドで半分死にたい【完】
花岡は、双子の兄として生まれて、思春期のころから親戚のおばさんのお世話になっていたらしい。ご両親は熱心な研究者で、住まいも日本には構えていない。
中学校からはこの地域にやってきて、今目の前で笑っている叔母に育てられたのだそうだ。いろいろな苦労がありそうに見えて、花岡は気にした素振り一つ見せずに部屋へと上がり込んでいた。
茶の間にはすでに三人分の朝食が並べられていた。私が誘われた場に置かれている大きな茶碗は、どう考えても花岡の弟のためのものだろう。
誰が来ると伝えていたのか気になるところだけれど、変な問いかけをするのもよくないと思いとどまった。
隣に座っている花岡が、何かをぽろぽろと話している。その言葉で、おばあさんが飛び上がらんばかりに喜んでしまった。
何を話したのだろう。
苦笑していれば、目の前のおばあさんの瞳がこちらへと向いてくる。
「あまねちゃん」
「えっ……」
確かに名前を呼ばれていたような気がした。その口の動きには見覚えがある。首を傾げたら、おばあさんが立ち上がって、タンスからえんぴつとメモ帳を取り出してきた。
“あまねちゃん、きてくれてありがとう”
何度かその文字を読み返して、ようやく顔を上げた。