やさしいベッドで半分死にたい【完】
何かを話しかけてくれている。わからなくてもう一度首を傾げたら、今度は花岡が振り返ってしまった。目が合って、すぐに顔を近づけてくれる。
「どうした」
囁かれるやさしさで、何かとんでもない勘違いをしてしまいそうだ。
「あの、その方……、何て言ってくれているんですか?」
「……自己紹介してる」
「自己紹介……」
「森山」
「森山さん?」
つぶやいてみたら、目の前の人、森山は苦笑してから大きくうなずいてくれた。間違いではないらしいが、すこし微妙な反応だった。
問う前に「藤堂の服、適当に見繕って持ってきたらしい」と次の話題に触れられてしまう。
たしかに、昨日から同じ服を着ているのが気になっていた。ほっとしてから、とくに金品の類を持ち合わせていないことを思い出した。花岡は私の青くなった顔を見ながら「別に借り物だから気にしなくていい」とあっさり言い放ってしまった。
何故私の言いたいことが分かったのだろう。
これには森山も大きくうなずいている。ようやく安堵して、しっかりと頭を下げた。
「(俺は下の名前を教えたんだけど?)」
「(伝えてやっただろ)」
「(ふぅ~~~ん?)」
「(なんだ)」
「(ふぅ~~~ん。南朋の秘密、ばらしちゃおっかなぁ~)」