やさしいベッドで半分死にたい【完】
「(そうか。よっぽど俺も舐められたんだな。よくわかった)」
「(うわ。うわうわごめん。うそうそ。マジで怖いからやめて。やめてください。今すぐ帰ります)」
頭上でやり取りされている何かをぼんやりと見つめながら、ずいぶんと仲が良いらしいことを知る。
このやさしい街が、花岡の青春時代を構成しているらしい。
やさしい匂いも、笑顔も、食べ物もすべてが素敵なものだった。私の思春期に、こういう笑顔はあったのだろうか。
先生や両親に褒められると安堵していた。
いつも周りはライバルばかりで、信頼するには心許ない。つねに自分を高めるためにだけ、必死になっている。そういう時期だった。
はやくに戦線離脱した私を、周りの人たちがどう思っていたのかなんて考えることはやめた。
同じように離脱する人を見た時、私はきっと心を痛めながらも、また戦うしかなかった。だから、何の印象も残らなくて当然だ。
「(はい。じゃあ、こっから好きなの着てね。選んだのは姉ちゃんだから、たぶん間違いない)」
目の前に大きな紙袋を置かれた。その中に、びっしりと服が入れられているらしい。にっこりと笑っているその人に視線を合わせて、同じように口角を上げてみる。
「ありがとう、ございます」