やさしいベッドで半分死にたい【完】


お礼をつぶやいたら、しゃがみこんだ人が、あっという間に顔を寄せてくれた。これには視界の端の花岡も驚いたようだった。何かを口を動かしている。


「いえいえ。じゃ、南朋の機嫌取り、よろしく」


想像よりも少しだけ低い。テノールが耳殻に触れて、目を見張った。 

まさか、囁きかけてくれるとは思ってもいない。

すぐに花岡に引っぺがされて、げらげらと笑っている。眉を寄せた花岡が何かを吹き込んだら、森山は肩を上ずらせて、慌てて茶の間から飛び出して行ってしまった。


何を吹き込んだのだろう。昨日、脅してないと言っていた花岡を思い返してしまった。


実はすこし、怒ると怖い人なのだろうか。

不可思議な想像をして、目の前に戻ってきた人が「うるさいやつで悪かったな」と声をかけてくれた。


「いえ、ぜんぜん……」

「そうか。服、バスルームで着替えてこい」

「あ、……はい」


紙袋を掴んだ人が、部屋の中を誘導してくれる。迷いない足取りに、この家が、彼にとっての慣れ親しんだ場なのだと再確認していた。

年季を感じさせてはいるが、綺麗に整頓された脱衣所にたどり着いて、足元に袋を置かれた。

 目が合って「リビングで待ってる」と囁き落とされる。ゆっくりと頷いて見せれば、やさしく髪を撫でて、後姿が遠ざかった。

紙袋の中には、かわいらしい衣服がこれでもかと詰め込まれていた。誰かが着たというのは本当なのだろうか。

下にはやはりインナーも入れられていた。中から少しだけ吟味して、上下の衣服を選んだ。サイズはほぼぴったりで、また少し笑ってしまった。
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