やさしいベッドで半分死にたい【完】
呆然としていれば、もう一度抱きしめられる。その胸の熱さで指先がしびれてしまいそうだった。
しばらく抱きしめられてから、もう一度目を合わされる。
目の前で唇を動かしているのが見えたけれど、何を言われているのかがわからない。首を傾げたら、眉を寄せた花岡が耳元に囁いた。
「聞こえるか?」
「あ、きこえ、ます」
何かを問いかけられていたのか。
どうして花岡は聴力を失っていることに気づいたのだろう。疑問に思ってから、花岡の指に握られている診断書が視界にぶつかった。テーブルの上に置きっぱなしにしていたから、勘付かれてしまったのかもしれない。
「耳元で話せば、聞こえんのか」
「あ、はい。……そうみたい、です」
「……そう、か」
かすかに吐息が耳殻に触れた。くすぐったくて体をよじれば、ますますつよく抱きしめられる。
香っている匂いは、四年前まで、よく嗅ぎ慣れていたものだった。
一切会ってすらいなかった人に抱きしめられている現状がよくわからない。驚かされることばかりが起こっている。
花岡が後ろを振り返って、大家と何かを話している。自殺を疑われていたらしいから、大家が持っている合鍵を使って入ってきたのだろう。さすがの私も施錠を忘れるほどぼんやりしていたつもりはない。