やさしいベッドで半分死にたい【完】
助手席のドアが開かれる。いつも私が触れる前に開いてしまうから、呆然としているところを見られるばかりだ。
もちろん自動ドアではないから、開いているのは花岡だ。私の顔を見て、それが普通であると思っているように手を差し伸べてくる。いつも、こんなふうに傅かれていただろうか。だとすると、当時の私は、接し方を間違えていたのかもしれない。
「あの、そこまでしなくても」
無視だ。
私の声を気にすることなく手を引いてくる。曖昧な速度で地面におろされて、さっき履き替えたスニーカーに小石の感触が触れる。
空気は常に澄んでいて、どこで深呼吸しても、新しい何かに生まれ変われそうな気さえしていた。
この山は紅葉狩りにはそこまで有名ではないらしい。
なぜかピクニックに行くと思われていたらしく、おばあさんがお昼ご飯を作ってくれた。
至れり尽くせりに恐縮していれば、当たり前のような顔をした花岡が荷物を奪い去っていったのが少し前のことだ。
車でなだらかな坂を上って、近郊の山の麓にたどり着いた。
桜山という名前らしい。
その名の通り、春には満開の桜が見られる山で、地元の住民だけが知っているような花見スポットになるのだそうだ。