やさしいベッドで半分死にたい【完】
車に乗り込んですぐに、「桜もいいですね」と言えば、「花見にも、また来ればいい」と言われた。その言葉も、過去の私の願望をなぞっている。
いくつもの私の気まぐれをすべて覚えていてくれたのかもしれない。いつも真顔で前を見つめているように見えたけれど、その実、私の願いを叶えられないことに罪悪感を覚えていたのだろうか。
それならば、軽率に願いを口に出したりするべきじゃなかったなんて思ったり、口に出したから、こうして手を差し伸べてくれているのだと思ったりしている。
ひどく混乱した心の中で、ただ花岡だけが生存していた。
昨日の運動のツケはすでにふくらはぎに回ってきていて、すこし筋肉痛だと言ったら、花岡の顔が笑っていた。
きっと鼻で笑われてしまったんだろう。
音がないから、聞きそびれてしまった。一年間ずっと隣にいたのに、マネージャーとしての花岡南朋は、少しも笑うことがなかった。追い詰められたように鍵盤に向かい続ける私の姿を見つめていたからなのかもしれない。
あの頃の私を、花岡はどんな瞳で見つめてくれていたのだろう。
恋人のような指先を見つめて、ゆっくりと山を登っていく。小高い山だから、思春期の頃は遊びに来たりしていたのかもしれない。
「よく、来たんですか?」