やさしいベッドで半分死にたい【完】
いくつか会話をした二人が互いに何かを頷きあって、大家が心配げな顔をしながら会釈をしてきた。話がまとまったらしい。何が何だかわからないまま、同じく頭を下げると、大家の表情が少しだけ和らいだ。

くるりと玄関のほうへ足のつま先を向けた大家が、当然のように去って行ってしまう。まさか、ここで元マネージャー――しかも大迷惑をかけた相手と二人きりにされてしまうとは思わなかった。


「ええと……」

「本当に、死のうとしたわけじゃないんだな？」


花岡は、極力静かに問いかけようとしている気がした。

耳元に鳴った低い声に肩が勝手に上ずる。

こんなにも近くで囁きかけられる未来など、一度として想像しなかった。しかも、花岡は綺麗な顔立ちをしている分、少し居心地が悪い。綺麗すぎて、フランクな仲には一度としてなれなかった相手だった。もちろん、今までいた歴代のマネージャーと親睦を深められたことなどなかったのだけれど。


「はい。なんだか、心配させてしまって……」

「……あんな連絡がきたら、誰でも心配するだろ」

「え？」


聞かせるつもりがあるのかわからないような音色だ。

花岡はわたしの反応に、もう一度ため息を吐いて、唇を耳元に寄せてくれる。その唇が、耳に触れてしまいそうな気がした。

< 8 / 215 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop