やさしいベッドで半分死にたい【完】
耳に唇を寄せられる気配にも、少しは慣れてきたような気がする。かすかに顔を花岡のほうへ向ければ、私を見つめている目と視線が絡まった。
真摯な瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
「もう一つ寄りたい場所があるんだが、眠くないか」
「え、ああ、大丈夫です」
眠れない日が続いているから、どのタイミングで波が来るのかわからない。自分でも曖昧な返事を打ってしまったことには気づいていた。花岡は、後部座席から黒いブランケットのような布を取り出して、私の膝にかけてくれる。用意周到すぎて、笑ってしまった。
「花岡さん、さすがマネージャーです」
「ほめてるか?」
「もちろん。今はどなたのマネジメントをしているんですか」
「ほとんど誰にもついてないな。管理職だ」
「昇進してる……」
軽口を叩いたら、突っ込むように頬を抓られた。もしかすると、花岡の癖かもしれない。一人で舞い上がりそうになって呼吸を整えていた。
どうやって、私との時間を作ってくれているのだろう。うっかり考えてしまった。花岡は私の思考を断絶させるかのように、声を上げた。
「出すぞ」
「あ、はい」
ぐるぐると変わる景色を見つめていられたのは、そう長い時間ではなかっただろうと思う。