やさしいベッドで半分死にたい【完】
「伝えるつもりはなかったが……」
「な、んですか」
「お前が毎月律義に返事を返してやるメール、相手は俺だ」
重々しくない。けれど、決して軽く言われたわけではなかった。
絶妙な重さで乗せられた声に、呼吸が絡まる。何を言われているのかわからない。
その相手――“親愛なる貴女”とは、実に十年近く文通を続けてきていた。
日本からはじめて送られてきたファンレターに、移動が多いからと電子メールのアドレスをつけて返事を出したのがはじまりだった。
長く続くとは考えてもいなかったし、そんなふうにファンレターを送ってくれた個人との連絡を取り合うことができたのは、本当に初めのころだけだった。
「……え? 花岡さん? が?」
まさか、その相手がこんなにも近しい距離にいるとは思わない。絶句していれば、眉を顰めた男性が乱雑に自分の髪を掻いた。
「そうだ」
「え? でも、女性だと、ばかり……」
ファーストネームは、“NAO”だ。よくよく考えれば、花岡の名前も南朋だったかもしれない。
拙い記憶をたどって、たしかに、その女性が自分自身を女性だと言ったことなど一度もなかったことを思い返した。私は大きな勘違いをしていることを、もう十年ほどの間、指摘されずにいたらしい。