やさしいベッドで半分死にたい【完】

「ん。そっちのほうは爺の趣味でライト使ったりしてるから、眺めたりしていた」

「あはは、結構ロマンチストですね」

「そうか? ただの暇つぶしだ」


髪を耳にかけてくれる。

もう一度オールを取って漕ぎ始めた姿を視界の端でこっそりと盗み見ながら、夜空に浮かぶうつくしい星の歌を見つめていた。


花岡は、真顔のまま、目的地のほうを見つめたり私の顔を見つめたりしている。何を考えているのかは、さっぱりだ。聞いても、私が求める答えは用意されないような気がしている。


夜の(とばり)が下りたら、花を見に行きたいと言ったことがあった。

数少ないウィーンでの記憶で、ピアノを散々弾いた後に、庭に出て綺麗に整えられた花を見ながら、紅茶を飲む時間が好きだった。

夜は静かで、花たちも一生懸命に咲き誇ろうとしたりしない。そういう素朴さを愛していた。

だから、演奏会の後、参加者との会食を済ませてホテルまで戻る道の中、ぽつりとこぼしたことがあった。

もしもその時の記憶を覚えていてくれていたのだとしたら、やっぱり花岡の有能さはすさまじい。かなわない人だ。


ぼんやりと見つめている先に、ちらちらと光が映る。イルミネーションのことを、花岡はただのライトと言っていた。そういうところは妙に現実的だと思う。一人で笑いたくなって押し込めていた。
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