やさしいベッドで半分死にたい【完】
淡い光に照らされて、水面に映る。よほど花を愛している人に違いない。夜中でも綺麗に咲いたコスモスが、控えめにライトアップされていた。
幻想的なワンシーンなのに、なぜかこの場には二人しかいない。
「綺麗です」
感極まって、装飾することもできずにつぶやいた。オールから手を離した人は、どうしてか、笑いながらも私の顔ばかりを見つめている。
「花岡さん、ちゃんと見ていますか」
「(見てる)」
「なんて言いました?」
たぶん、聞こえていないと確信していながらつぶやいたりしている。
すこし私の扱い方を覚えてしまっているかもしれない。困った癖にむっと拗ねたような顔を作ったら、わずかに瞼を瞬いた花岡が、ためらうことなくこちらに近づいてくれた。
「藤堂のほうがずっと綺麗だって言ったんだよ」
一切躊躇わない。夜の挨拶のように言い切った人は、私の目を、いまだにじっと見つめていた。
反応を見つめられているのだろうか。驚きすぎて、何一つ返せない。苦し紛れに口を開いていた。
「今日はどうしたんですか」
「素直に言っただけだ」
すぐに言葉が返ってくる。その音で、考えていたことのすべてが散らばってしまった。