やさしいベッドで半分死にたい【完】
「嘘言わねえって言っただろ」
朝、そんな話をしたかもしれない。ぼんやりと浮かび上がった記憶にを首肯する。
花岡南朋という男が、どれくらい深みのある人間なのか、実のところ、私はよくわかっていなかったのかもしれない。
側にあるだけで、ただ惹かれてしまう。
「……なんか、今まで知っていた人と全然違います」
ずっと苦し紛れだ。見ているだけで胸がひねくれてしまいそうで、必死に体をそらした。
目の前に見えているコスモスをじっと見つめて、私の指先に、私のものではない、やさしい熱が触れたら、こころがぜんぶ、くだけそうになる。
すきになってしまう。
懲りずに抗いたい誰かが叫んでいた。哀れな恋心に、秋の風が頬を湿らせる。
花岡は、私の気持ちなんて構うこともしなかった。ただ、嘘をつかずに、あっさりと私の耳に囁きいれた。
「そうか。じゃあマネージャーがいきなり好意を持ってるなんつう、気色の悪い事情に気づかない鈍感でよかった」
何度かみ砕いても、私に好意を持っているとしか思えないような声で、花岡が囁きかける。
あたたかさで、逃げ出したくなった。
どこにも逃げ場なんてない。そういうところまで計算されていたとしたら、私はこの人を恋しく思う気持ちから逃れられるはずもなかった。
「……ほんとうですか」