やさしいベッドで半分死にたい【完】
こわごわとつぶやいたのに、間を置くことなく、花岡の声が耳にぶつかる。
「嘘ついてどうする」
「……励ますために、わざと」
どうしても信じがたくて、必死になっている。
好きな人に好いてもらっている。どれだけ素敵なことだろうか。私の世界には一度として訪れなかった。恋のやさしさやくるしさすら、知らない人生だった。
ピアノだけの私に、色を灯してくれる。
都合がよすぎる。夢のような人だ。できるなら、このまま目覚めたくないと願ってしまった。
「これくらいで励まされんのか、それなら安い。何度でも言ってやるよ」
すこしも躊躇わないし、恥ずかしがることもなかった。
花岡の指先が私の頬をやわく掴んで、引き寄せる。目いっぱいに花岡の真剣な表情が映った。
嘘なんてつかない。いつも真っ向から私を見つめてくれている。夢だろうか。
「好きだ、惚れてる」
「俺だけを意識してほしい」
「はな……」
「もうぜんぶ忘れちまえよ」
どこまでもやさしい声に揺さぶられて、許可なく抱きしめられた。
私のことを、好きでいてくれたのか。
信じられなくて、もう一度耳に残る音を確かめたい気分になっている。こんなにも素敵な人が、どうしてだろう。
混乱している私を見て、もう一度、この世界の全て、うつくしい星のまたたきにすら見せないよう、すっぽりと包み隠すみたいに抱かれた。