やさしいベッドで半分死にたい【完】
一周するか、と言われて頷いたけれど、あまりにも視線が痛くてくじけてしまいそうだった。


「見すぎです」


何度目かの苦情で、花岡がまた笑っていた。


「(好きな女眺めて何が悪いんだよ)」

「聞こえないってわかっててつぶやくの、ルール違反です」


はいはい、と口が動いた気がした。こんなにも静まり返った世界なのに、どうしてかうるさく感じてしまう。

花岡のテンポに揺さぶられて、今なら何かを生み出せそうな気がしてくる。結局そういう思考から抜け出せていない自分にぶつかってしまった。


まっすぐに見つめれば、すぐに視線が絡み合った。

ずるいなあ。

なぜそう思ってしまったのかわからないけれど、とにかくそんなことを考えてしまう。

いくつもの選択肢を用意しながら、まっすぐに手を差し伸べてくる。この人といれば、間違いなくすべてを忘れて、自由になれると確信してしまえるような力強さがあった。

全部忘れて、投げ出して、花岡を慈しむだけの人生があるだろう。そういう生活を送ったとしてもきっと悲しむ人は多くないだろうと思う。

どんな人生を選択するのも私の自由だ。花岡は、選ぶ権利を教えてくれた。

まぶしい人で、嫌になる。どうしても選びたくなってしまうから困っている。

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