やさしいベッドで半分死にたい【完】
学校にたどり着くころには、結局零時をまたいでしまっていた。ずっと運転を続けていた花岡の顔色を窺おうとして、少し屈んだ花岡に、先に顔を近づけられる。
「眠れそうか」
今朝私に起きていたことを、決して忘れたりしなかった。花岡の声に、苦笑しながらも頷いてみる。
願望のようなものだ。私の曖昧な表現で、あまり自信がないらしいことに気づいてしまったのだろう。
「不安なら隣で寝てやろうか」
「いえ、緊張して眠れなくなります」
即答して、細やかに笑われてしまった。おふざけで提案されていたらしい。
「冗談。ただ、夢見が悪いなら呼んでくれ。眠気が来るまで、付き合う」
私なんかよりよっぽど疲れたはずの人が心配そうに見つめてくる。どこまでもやさしい。その瞳に好意を押し付けたくなって黙り込んだ。
「返事は?」
「花岡さん、お母さんみたい」
「んなわけねえよ。女に見えるか?」
「凛々しすぎますね」
花岡のようにふざけたら、同じように笑い声が聞こえた。一緒に校舎に入って、自動でついていく蛍光灯のまぶしさに目を細める。
「明日は、映画でも観るか?」
軽く誘ってくれていた。途中で眠ってしまってもいいような用事を作ってくれる。それも、私が配慮に気づいてしまわないように言ってくれるのだからたまらない。