きみは僕の正しい光
それが小学5年生の時のこと。
それから10年の時が過ぎて、私と那由多は21歳。
大人の仲間入りをした。
「知恵ー!」
呼びかけに振り返ったと同時にどん、と背中に衝撃があった。はあ、と息をついて顔を上げたのは、同じ学部で友人の理加だ。
「レポート! 忘れてるし」
「あ、ごめん。さんきゅ」
「もらっていんなら有難ーくいただくけど」
「あーまってそれないと卒業出来ないー」
爆弾落としすぎでしょ、と掲げた手から取り返したレポートは無ければ卒論の完成すら危ぶまれる大切な資料だった。なんでこんな大切なもの置いてくかな、と抱えたファイルの間に挟んだら肩に手を置いた理加がそのまま顎を置いてくる。
眉上の前髪にキリッとした眉、頭の後ろで一つにまとめた髪は今日も彼女の好きなエスニックファッション健在で、「あー」と気怠げに声を漏らすことで耳にぶら下げた大きなボヘミアン風のピアスが首にあたった。
「知恵氏就活進捗どお」
「や、卒論でいっぱいいっぱい」
「他学部の谷内2社内定決まったらしいよ」
「うっそ早くない?」
「無理なんだがー」
大学三年、冬。春から四年生となり卒論と就活に本腰を入れなければならない時期だと言うのに、比較的就活のスタートが遅いうちの大学ですらちらほら周りからは内定の声が届き始めていた。
理加から聞いたとき、知り合いの内定が決まったのは既にもう7人目で。日夜卒論を言い訳に本格的な活動に踏み出していない私は自然と置いてけぼりになる。
「もうまじだるじゃん? こないだまでヤッホーサークル♡ ヤッホー飲み会♡ ヤッホーキャンパスライフ♡ だったのに急にみんな現実見るじゃん、裏切り者め」
「理加もやりたいことあるじゃん」
「服飾のねー。だったらたっかい学費払ったんだからはじめからそっち専門の学校行けやてばちくそ親父に叱られてもう昨日なんて大喧嘩。今も口きいてないもんね、てかいーじゃんね奨学金で通ってていずれ自分で返すんだからさマジうるさいんよつべこべうだうだ! けど失敗して実家の酒屋ルートだけは全回避必須だからなんとか生きるわ」
「頑張れー」
「知恵は?」
今日も図書館? と訊かれて少しだけ笑ったら、おつかれーと笑われた。
知恵、お前はいい子だ、と頭を抱かれてぐりぐりされるけど私は私が綺麗じゃないことを誰よりも知っている。
それを知らないのは、今ここにいる理加と、それから私以外の人間だけだ。