残酷な天使に牙はない。
ギシッとベットの軋む音で、浮上しかけていた女の意識が、完全に現実へと舞い戻った。
目を開ければ美しい男が、今、正に床に散らばった服を拾って着ていき、このホテルの一室から出て行こうとしているところだった。
「――っ、伊世!」
痛む腰を我慢して、女はベットから立ち上がり男の腕を掴んだ。
振り向いた男は、だるそうに頭を掻いて、女に視線を向ける。
「……なに」
抑揚のない声。女は、昨日、あんなに優しかった彼とは別人のように見えた。
「なにって……。もう、帰っちゃうの……?」
「当たり前だ。もうここにいる意味ねぇーし」
こんなにも乱れたのは初めてだった。こんなにも求めたのは初めてだった。女は、もう一度と、男を必死で引き留めた。
乱れたい。
満たされたい。
彼をもっと、感じていたい。
惚けた顔。欲情しきった身体は素直で、彼の大きな手を、自分の胸に当てさせた。
「お願い。一回でいいの。あと、一回だけ……、」
貴方でイかせて。
女の下からは、ツーと太ももを伝う愛液が垂れていた。