残酷な天使に牙はない。
「……うぜぇ。昨日、散々ヤっただろ」
所詮、一夜だけの身体の関係では、この美しい男を引き止めることなど出来ない。
女が、潤んだ瞳で視線を上げると、ある重大な事実に目を見開かせた。
「っえ、高校、生……?」
そう、彼は高校の制服を着ていたのだ。
てっきり、大人びていてもうすでに成人を迎えていたと思って身体を重ねた男はまだまだ未成年だったのだ。
「じゃあ。俺、行くから」
そう言って、男は女の手を振り解き、ソファの上に置いてあった鞄を手に取った。
パタンと閉まったドア。
女はただ、呆然とするしかなかった。
静まりかえったホテルの一室で、突然ケータイのアラームが鳴り響いた。
普段、女は会社でも人気の美人OLとして働いていて、そのアラームは起床時間を知らせるものだった。
女は、「はぁ……」と一つ溜め息を吐いて、アラームを止めた。それからバスローブを持って、お風呂へと向かう。
「っ……」
求めて、乱れていたのは自分だけなのだと嫌でも自覚してしまうほど、鏡に写った女の身体は虚しいくらいに白かった。