残酷な天使に牙はない。
「やめろ。喧嘩なら外でやれよお前ら。また部屋の物壊す気か、あ"……?いい加減にしねぇーと、アランが怒らなくても俺が怒るぞ」
軽い潔癖症なカオルは、こめかみに青筋を浮かべながら低い声で言った。
ナオとロイ。2人は顔を合わす度、こうして言い合いになり、最終的には喧嘩に発端する。それで何度も部屋を荒らし、壊し、片付けをするのはカオルとタマキ……その繰り返し。
アランは基本、他人には無関心で、“くだらない”“どうでもいい”“めんどくさい”と、常にそう思っている男なのだ。
優しい人ほどキレると怖いと言うけれど、怖い人がキレた方がよっぽど恐ろしいなんて、小学生でも知っていることだ。
タマキも怖いけれど、それは確実に精神を攻撃するもので、逆にカオルは肉体を攻撃するものといったところか。
もちろん、ナオとロイはMでもマゾヒズムでもなんでもない。
「で、でもさ、でもさっ……、!アランってやっぱりかっこいいよね。かっこよすぎて眩しいよね。あれは本当に、美の暴力だよ!!俺が女だったら絶対堕ちるね。ずどっーーーーーーんって堕ちちゃうね!!!!」
突然、手のひらを返したようにアランを褒め称えるロイに、ナオは「わかってるじゃん」と口元を緩めうんうんと頷いた。
実際、ロイはアランを嫌っているわけではない。寧ろ、ナオと同じように、アランが自分の世界を中心に回っていて、誰よりも尊敬、崇拝していた。