シンデレラは、ここにいます。〜嘘恋〜

部屋に戻ったら雨登くんがいなかった



アレ?

もしかして帰った?



隣の部屋を開けたら

布団の中に雨登くんがいた



なんか

少し布団近くなってない?



雨登くん

寝てる?



物音を立てないように

そっともうひとつの布団に入った



「恋々…おかえり…」



ドキ!



「あ、雨登くん、起きてたんだ
寝ててよかったのに…」



「寝ててほしかった?」



「別に…
ただ、雨登くん疲れてるかな…って…」



薄暗い部屋

雨登くんと目が合った



ドキン…



布団の中から

雨登くんがこっちを見てる



「温泉すごく大きくてよかったよ!
雨登くんもシャワーじゃなくて
大浴場にすればよかったのに…
これから行ってくれば?」



「よかったね

戻ってきたら恋々寝てそうだから
オレは行かない」



雨登くんがずっとこっちを見てて

私は布団で顔を隠した



「恋々…もぉ寝るの?」



「ん?…うん」



「あー…オレ、ずっと待ってたのにな…」



そーだ、雨登くんは待っててくれたんだ



「ごめん!」



布団から顔を出したら

雨登くんが笑った



「恋々、おもしれー…
緊張しすぎじゃない?」



だって

緊張するよ



雨登くんはしないの?



「ねー、恋々…」



「ん?なに?」



「今日、一緒に来てよかった?」



「うん
誘ってくれて、ありがと

でも、私でよかったの?
こんなにいい温泉もったいないよ
友達とか、家族とか、もっと他の人と…」



「恋々と来たかった
温泉じゃなくてもどこでもいんだけど
時間がある限り恋々といたいな…って

今日、恋々と一緒に来れてよかった」



時間がある限り



もぉ少しで2ヶ月だね



いっぱい写真撮って

いっぱい笑って



私は雨登くんといると

ドキドキする



いっぱいドキドキした



ドキドキして辛くて

いつも逃げたくなる



「恋々に会えてよかった

ありがと…」



「雨登くん?急にどぉしたの?」



「よかったな…って思ったから…

急にでもない
最初会った時から思ってたかも…」



「そーだね…
一緒に都合よく卒業できる子
探してたんだもんね…」



雨登くんは野いちご学園を卒業したくて

カップル成立できる相手を探してた



雨登くんには彼女がいたから卒業したかった



カップル成立できる子の条件は

かわいい子でも性格が合う子でもなくて

雨登くんに好意を持ってない子



卒業したら2ヶ月カップルのフリをして

2ヶ月後別れられる子



事務所に推されて

野いちご学園に入学した私は

すぐに卒業したかった



雨登くんの条件にピッタリだった



私に会えてよかったね

雨登くん



感謝してね



ズキン…



ダメ…

また辛い



「雨登くん、私寝るね…」



また布団で顔を隠した



「恋々、眠いの?
さっきも寝てたし、つまんな…」



「じゃあ、雨登くん
なんか話してよ…

私、聞いてるから…」



「んー…
そーだな…

いっぱい話したいことある

オレ、最近みる夢が変わったんだ
いつも追われる夢みてたのに
今は追い掛けてる

なにか好きなものをずっと追い掛けてる

追い掛けても追い掛けても届かなくて
手に入らなくて…

苦しくて辛いけど
でも嫌じゃないんだ

ずっと追い掛けたくなる」



「ん?なんの話?」



「オレの夢の話

恋々は?
最近なんの夢みた?
さっき寝てた時は?」



「んー…
お腹いっぱいピクルス食べる夢みた」



「なに?それ…
恋々、ピクルス好きだった?」



「んーん…嫌い!
嫌いな物をお腹いっぱい食べるって
辛いんだな…って思った」



「恋々、笑える…」



「私、辛いのに笑わないでよ!」



「ごめん…

オレ、恋々といると楽しんだ
ずっと笑ってられる

疲れてても
嫌なことがあっても
癒やされる

ずっと見てたい
かわいいな…って…

恋々…
近くにいってもいい?」



「え?」



布団の外から聞こえる雨登くんの声に

ドキドキした



「恋々と話してたら
もっと近くに行きたいな…って思った」



ドキン…



緊張する



「ダメ…
絶対、布団から出ないでね!」



「はい、はい…

こんなに近くにいるのにね…

同じ部屋にいるのにね…

まだ…もっと…
恋々の近くに行きたいな…って思うんだ」



雨登くんが発する言葉ひとつひとつが

胸に響く



雨登くん

これも全部仕事だよね



誰も見てないんだし

別に嘘つかなくてもいいのに…



写真だって投稿してないし

別に撮らなくてもいいのに…



思い出だって

私たちにはいらないのかも…



なのに

なんで…?



今日だって

私なんかと一緒に来なくてもよかったのに…



「恋々…手のばして…」



「ん…?なに…?」



「手、繋ぎたい…」



ドキン…



「なんで…?ヤダ…」



「いいじゃん
布団から出なければいんでしょ
絶対出ないから…」



「ヤダ…」



だって

触れたら…



「ねー、お願い…恋々…」



触れるたび

好きになる



私は雨登くんみたいに

上手に嘘がつけないし

上手く嘘を流せない



だからね…



これ以上はダメ


< 107 / 147 >

この作品をシェア

pagetop