シンデレラは、ここにいます。〜嘘恋〜

「…ん…」



目を開けたら

誰かの顔が目の前にあった

近すぎて誰か認識できなかった



夢かな…



どこだろ?

私の部屋じゃない

そーだ雨登くんと温泉に来たんだ

一緒に泊まった



え…



すぐ目の前にいる人が誰かわかって

息が止まった



雨登くん



なに?

なにかしたっけ?



なにもしてないよね?



別々の布団で寝て

指先が触れて



それで…



そこから意識がない





寝ちゃったんだよね



でも、なんで?



どーして

こんなに近くにいるの???



どこも触れてないのに

身体が熱くなった



雨登くんの吐息だけが私に触れる



睫毛が長くて女の子みたい

綺麗な顔



触れたくなる



私の吐息がかからないように

息をひそめた



なんでこんなに近いの?



ゆっくり雨登くんの睫毛が動いた



ドキン…



「ん…恋々…」



咄嗟に目を閉じた



「恋々…恋々…」



ドキドキ…

ドキドキ…



雨登くんが私の名前を呼ぶたび

ドキドキする



雨登くん

寝言かな?



そっと目を開けたら



「恋々…」



雨登くんの目は開いてた



ドキン…



「あ、雨登くん…」



気まずくて

どーしたらいいかわからない



薄暗い部屋

雨登くんの目だけが視界に入る



それくらい近い



「恋々…」



ドキドキ…



「どーして、雨登くんこんな近くに…
寝る前は、もっと離れてたよね?」



ドキドキ…

ドキドキ…



「うん
布団から出なければいんでしょ」



たしかに

雨登くんは自分の布団から出てない



でも

私と雨登くんの布団はピッタリくっついてた



「オレの布団近付けた」



ドキドキ…



「ヤダ…
こんな近かったら、恥ずかしい…」



ドキドキ…



「大丈夫
暗くて見えないし…」



ドキドキ…



「でも…」



ドキドキ…



止まってた心臓が急に動き出した感じ



ドキドキ…



どこも触れてないのに

薄暗くてよく見えないのに



身体が落ち着かない



どーしよ…



「あ、雨登くん寝れた?
また寝よっか…
まだ外暗いね」



ドキドキ…



「うん…
寝れなかったけど
寝たみたい

夢みた」



ドキドキ…



「どんな夢?
また何か追いかけてる夢?」



ドキドキ…



「欲しいものを見つけたけど
ガラスに入ってて…
お店の中の商品を外から見てるみたいな…」



「お店のショーウィンドーみたいな?」



「うん、そぉそぉ…

オレは、ずっと外からそれを見てんの
すぐ前にあるのに…
ガラスの向こうにあって…
欲しくて…
ずっと見てた…」



「見てただけ?
買えなかったの?」



「うん、見てただけ

欲しいな…って…

ガラスで遮られてて
触ることもできなかった」



夢中で話してたけど

雨登くんが近すぎることに気付いて

またドキドキした



近いのに

それぞれの布団が境界線で

雨登くんは絶対そこから出ない



ちゃんと約束を守ってる



境界線のギリギリに

雨登くんはいる



ドキドキ…

ドキドキ…



「恋々…
もっとこっち来て…」



ドキドキ…

ドキドキ…



「ヤダ…」



ドキドキ…



「なんで…
オレはもぉこれ以上近付けないし…」



ドキドキ…



「ヤダ…
だって…充分近いし…」



ドキドキ…



「約束は守るよ
絶対、布団から出ない
だから…」



ドキドキ…

ドキドキ…



「ヤダ…
だって…恥ずかしいもん」



ドキドキ…

ドキドキ…



「オレって
そんな信用ないんだね…」



雨登くんは苦笑いして

諦めたみたいに目を閉じた



綺麗な顔



吸い込まれるみたいに

近くに行きたくなった



雨登くん…



境界線のギリギリまで

身体を寄せた



ドキドキ…

ドキドキ…



雨登くんの顔が

すぐ前にある



目を閉じててもわかる綺麗な二重

長い睫毛は瞬きしたら触れそうなくらい近い



少し動いたら鼻先も触れるかも



雨登くんの唇



ホントの彼女だったら

触れてくれるの?



「恋々…」



ドキン…



雨登くんの目が開いた



ドキドキ…

ドキドキ…



また心臓がビックリするくらい動き出して



「恋々…

ありがと…
今日、一緒に来てくれて…
また恋々と思い出できた」



触れそうなのに触れなかった



境界線ギリギリにいる私と雨登くん



雨登くんは微笑んで

そのまま目を閉じた



ドキドキ…

ドキドキ…



「恋々…

好きだよ…」



ドキン…



雨登くんが目を閉じたまま言った



「オレ、約束はちゃんと守るよ」



雨登くんは約束どおり境界線から出なかった



ねー、雨登くん

目を閉じて言った

好きだよ…は

嘘?



ねー、雨登くん

雨登くんに触れてほしいと思う私は

ズルいかな?



ねー、雨登くん

約束は守るよ

2ヶ月の約束も…?



ねー、雨登くん

私も好きだよ

それも嘘かな?



私もそっと目を閉じた

涙が滲んだ



ねー、雨登くん

約束破ってよ



ねー、雨登くん…



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