オレにしか、触らせるな!

人混みを抜けて

振り返った渉香の頬が濡れてた



渉香…?



水槽の明かりで渉香が泣いてるのが見えた



「渉香…」



「ごめんね…」



渉香が慌てて頬を拭いた



「ごめん…渉香…

オレ
綺麗だった思い出だけ残そうとしてた」



「綺麗じゃなくて、ごめんね…

綺麗にとっておけばよかった
傑くんに会うまで…

後悔してる

全部、後悔してる

あの時、別れたことも

再会したことも

抱かれたことも


忘れられなくて…

ごめんね…忘れられないよ…


でもね…
付き合ったことは後悔してないよ…


都合がよくて、ごめんね…


大好きだったよ
私を好きって言ってくれる傑くんが…」



渉香

ずっと泣くの我慢してた?



渉香からボロボロ涙が溢れた



「綺麗だよ…」



あの時と変わらなかった笑顔も

白く透き通る肌も

オレに触れる指先も

綺麗だった



今、必死に止めようとしてる涙も

綺麗だよ



渉香の頬に流れる涙をオレの手で拭った



オレの掌に

冷たくなった渉香の頬と

温かい涙が伝った



「ありがとう…傑くん

一緒に水族館来てくれて…

ありがとう…
今日、一緒にいてくれて…

私ね
綺麗なんかじゃないよ

今もね
傑くんの1番になれなくてもいいから
2番でもいいから
また会ってほしいって思ってる

最低でしょ、私

昨日で最後にしようと思ったのに…
今日も…
今日も傑くんと一緒にいれて…
嬉しいと思っちゃった

ごめんね…


ごめんなさい
大好きで…」



大好きって…

渉香

ホント?



「オレのわがままも聞いてくれる?

渉香はオレの2番でよくても
オレは渉香を1番にしたいって思ってる


あのさ…
もぉ合コンとか行かないでよ

大学の時
渉香に再会してから彼女作れなかった

待っててなんて言われてないけど…
オレが勝手に待ってただけだけど…

毎週飲み会も女の子からの誘いも断わって
渉香のこと待ってた

渉香が1番になってた


今も…
中学の時も…
あの時からずっと…
渉香が好き…


医者でも弁護士でも社長でもなくて
ただの新人会社員だけど…

ごめん…渉香のこと、好きなんだ

渉香…
オレの中では2番じゃなくて
ずっと1番だった

オレの1番になってよ…


なんて…
なんでもないオレが言っても
無理なのわかってる

でも、コレがオレの気持ちだから…

バカだわ、オレ
ありがと、聞いてくれて…」



渉香の目から

また涙が溢れた


それから少し笑った?



「なに…?

笑った?

オレ、真剣だったけど…」



「んーん…笑えないよ…

嬉しくて…

ズルいよ…傑くん

忘れてって言ったくせに…


私も好きだったよ
普通の中学生だった傑くんが好きだった

今も
新人会社員の傑くんが大好きだよ

大丈夫?って絆創膏貼ってくれて
おいしいねっていっぱい食べてくれて
どこ行きたい?って一緒にいてくれる

ホントは傑くんの1番になりたいよ

ずっと大好きだった

今も…大好き…」



涙で溺れそうになってる渉香を

ゆっくり引き寄せた



「傑くん…息、できないよ…

んー…大好きだよー…」



今日は冷たい雨じゃなくて

温かい涙を全部吸い取るくらい

渉香を抱きしめた


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