私しか、知らないで…

久しぶりに紫苑の素顔を見た

出会った頃の紫苑



「ん?なに?
あんまり見ないで…」



髪をタオルで拭きながら紫苑が言った



無意識にずっと見てた



「じゃあ、オレ寝袋で寝るから
紫苑、布団使って…」



「フフフ…
亜南、笑える
ホントに寝袋だー
ねぇ、私も寝袋がいい!
楽しそう!寝袋初体験!」



「ちょっ…
コレにふたりは無理だから
入ってくんなよ…」



「アハハハ…
狭いけど…なんとかなりそうじゃない?」



紫苑が楽しそうに戯れてきた



「いや、無理でしょ!
破れるから…
それならオレが布団で寝るよ
紫苑に寝袋貸す」



「…」



急に紫苑が黙った

さっきまで戯れてたのに…

さっきまで笑ってたのに…



「紫苑?」



「ホントはね…

ホントは、寝袋で寝たいんじゃないの

亜南と一緒に寝たかった」



静かになった部屋に水層の音だけが響いた



「紫苑、寂しいの?」



大丈夫って言ってたけど

ホントは

やっぱり

寂しかった?



「んー…
んーん…

寂しくないよ

亜南がいるから…

でも亜南はまだ
忘れられない人がいるのかな…?って」



紫苑が顔をあげて

目が合った瞬間



なにかが

切れた



「紫苑…」



「ん?」



「ねぇ…」



「ん?」



「また、好きになっても、いいの?」



「ん?」



「オレ、また好きになる
紫苑のこと…」



いや…

たぶん



「ん?

ホントに…?」



いや…

たぶん

もぉ



「うん…」



好きになってる



「フフ…

また、好きになるだけ?」



「今度は、ちゃんと彼女にしたい」



「フフフ…亜南の彼女にしてくれるの?」



いや…

たぶん

もぉ



いや…

たぶん

ずっと



「うん…

紫苑、好きだよ

オレの彼女になって…」



「フフフ…
なんか、照れるね

はい、私でよかったら…」



こんな年になっても

年上なのに年下みたいな

この女性に

聞かなきゃ好きになれなくて



いや…

聞かなくても好きなのに

伝えることに躊躇する



ダメって言われたらオレは

どぉするつもりだった?



いや…

きっと



この人もオレのこと好きだからって

どこか確信があったから聞いたのかもしれない



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