私しか、知らないで…

花澤と一緒に帰ってほしい

藤森に頼まれた理由をオレは知った



電車で痴漢にあった

花澤が自分で言った



「笑っちゃうよね…」

花澤は無理して笑ってた



笑えないし



そんなこと
ホントは言いたくなかったかもしれないのに…

花澤は自分でオレに話した



男みたいって花澤は自分のこと言うけど

ぜんぜんそんなことなくて



小さな身体も

たまに香る甘い匂いも

前田とか田中とか男の友達とは違う



オレが井上さんと帰ってる間に

花澤は辛い思いをしてた



ごめん

何も知らなくて



ずっと一緒に帰ってたら

こんなことにならなかったはず



ごめん

何もできないけど…



電車の中で震える花澤の手を握った



冷たくて小さい手



オレが握ってあげると

少しずつ温かくなって

少しずつ震えがおさまる



電車の振動と一緒に

オレはドキドキした



ごめん

花澤は辛いのに…



オレはこんな気持ちでいて



オレがいることで

花澤が少しでも安らぐなら



オレがいることで

花澤が守れるなら



この関係でも

一生そばにいたいなって

思うけど

卒業が近付いてた



卒業したら

花澤と藤森は

生徒と先生じゃなくなる



卒業したら

花澤とオレは…



電車の中でだけ許されるこの関係を

なんて言うんだろう



両思いでもなく

片思いでもなく



そぉか…

オレの独りよがりだ



卒業したら

もぉそれもできなくなる



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