私しか、知らないで…

「あのね、今日先生に会ったの!
久しぶりで、ビックリした」



先生…



久しぶりに聞いた

すごく嫌な響き



卒業式から
ちょうど1年会ってない



「…先生って?」



知ってるのに

わざと聞いた



「藤森先生」



やっぱり



「へー…」



「花屋さんで困ってる人がいて
変な人〜って思って
よく見たら先生だった」



「へー…」



「なんとか…っていう花を探してて
どこの花屋さんに行ってもないんだって
しかもそれを花束にしようとしてて
花屋さんもちょっと困ってた」



「へー…」



相変わらず変な人



「それでね、
昔おばあちゃんが行ってた花屋さん
一緒に行ったの」



「え!一緒に?
一緒にって?どーやって?」



「ん?先生の車で

5分ぐらいだよ
歩くと20分はかかったかも」



「時間とかどーでもいいけど…」



「そしたら、あったの!
でも花束にするには少なくて
花屋さんまた困っちゃって…」



「アホか…」



「先生、なんでそんなに一生懸命
その花を探してるかって…」



別に知らなくていいけど…



「先生、プロポーズするんだって!」



「え!プロポーズって?
え!藤森、彼女いたの?
あ、魚に?」



「うん、彼女いたんだって!
ビックリだよね

先生より4歳上で
高校生の時に出会って

去年の卒業式の帰りに偶然再会したんだって」



オレたちが付き合った日じゃん!

なんか記念日が同じっぽくて嫌なんだけど…



「え、なんか、小説とか映画の話?」



「んーん…先生!」



「マジ?」



「花の名前、何だったかな…

小さくて薄紫の花だったな…

普通は花束にはしないって
花屋さんが言ってた
しかもプロポーズに使った人は
初めてですって…」



「ホントに変わってるね、藤森」



そして

この話

長くね?



「なんて花だったかな…
シ…
先生の好きな人の名前の花なんだって
だから先生一生懸命探してたの

花言葉は、君を忘れない

高校生の時からずっと好きだったんだって
先生、花屋さんとずっと話してて…」



「花屋さんも迷惑だろーね」



「ぜんぜん
すごく親切にしてくれたよ!

それで花屋さんの提案で
カスミソウと合わせることにしたの」



「へー…」



カスミソウ…?



カスミ…

私の花



カスミ…

やっと呼んでくれた!



「花言葉は、感謝、幸福…
どんな花も引き立てることができる花…

…だろ」



「北翔、覚えてたんだ…」



あれから

オレたち1年経つね



「へー…
いいプロポーズになるんじゃね?」



あ…



香澄、気にしてるかな?

藤森が結婚すること



「先生、よかったな
幸せそうだったし…」



「ホントにそんなこと思ってる?」



「うん、思ってるよ!
なんで?」



まだ好きなんじゃねーの?



言おうとしたけど
シャレにならないなと思ってやめた



「先生、今ごろプロポーズしてるかな?
きっと喜んでくれるだろうな
先生、すごく頑張って探してたから…」



また香澄の頭の中に藤森がいる



香澄しか知らない藤森

藤森しか知らない香澄



今日プロポーズされる彼女も知らない藤森を

香澄は知ってる



なんか

すごく

嫌なんだけど…



ねぇ

香澄



今日3月1日

オレたちの

付き合って1年の記念日だって知ってる?



なのに香澄は

藤森のこと考えてる



こんな日に



最悪…




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