許す事ができるの?
···新転地
午後から稚内の出張所に
挨拶に向かった。
今日は、金曜日で
明日、明後日で引っ越しや
片付けを行う予定だ。
頭の中では
理不尽だ····とも····思った····
私の大学からの恋心は
粉々に壊れてなくなってしまった。
ずっと、あの女のせいだと
思い込んできた私は·····
何··だった···のだろうか·····
会社を辞めようとも思ったが·····
だが、もう·····
何も····考える力も·····な···かった····
社長からも···見離されて·····
私と社長は、男女の仲ではない
たまに、食事をご一緒させて
頂いていただけ。
一人ぼっちの私に
「たまには、美味しいものを
食べるか?」
と、誘ってくれていた。
好きな人がそばにいても
相手にもされず
家でも一人の私を見かねて
優しく声をかけてくれていたのだ。
入院している社長のお見舞いの時
奥様にも何度もお会いして
お話させて頂いた。
可哀想な女と思われるのでは
と、思っていたが
奥様は、いつもお優しかった。
そんな社長の····
そんな奥様の·····会社に
傷をつける····なんて·····
自分自身が····情けない····
律君に対しても
彼が····恋人なら
彼が···彼氏だったら····と
ただ···願望····が··見せていた····
もの···では····ないか····
考えていると·····
「おっ、あんたが戸川さんか?」
事務所の中の応接室で待つように
言われた私に声がかかった。
慌てて立ち上がり
振り向くと······
「あははっ。
まぁ、たいがいの人が
そんな反応をするよ。
あっ、すまん。
俺は、稚内出張所・所長
大熊だ。」
「もっ、申し訳ありません。
戸川 朱里と申します。
宜しくお願い致します。」
と、頭を下げる。
「本社で、問題を起こしたと
聞いていたが、まぁ、まともじゃ
ねえか。
ここは、寒さもだが
仕事も大変な場所だ。
女だからとかと甘やかす気持ちは
俺には、毛頭ない。
それは、ここに勤める社員全員
わかっている。
外に出ることも多いから
スカートでなくてもかまわん
くつも事務所用と外用と用意しとけ。」
「はい。」
「あっと、戸川の急な異同で
噂はあると思う。
だが、俺は内容は誰にも話していない。
噂は、あくまでも噂だ。
それをお前が打ち返すだけの
働きをするか
あきらめて帰るか
それは、お前・戸川自身が
決めれば良い。
間違うな、俺はどちらでも
何も思わない
ここは、それだけ大変な場所だから。
まず季節に対応できないやつが多い。
無理をするな、と言う事だ。」
と、言われて
思わず涙が溢れてしまった。
すると、大熊所長は、
私の頭に手を置き
「自分のやった事を後悔してるんだな。
詫びたくても、詫びる事は
できないんだ。
お子さんの健康と幸せを
願いながら生きて行け、な。」
と、言ってくれて
私は、何度も、何度も頷いた。
ここで、この人の下で
働いて行こう。
そう、思える初顔合わせだった。