LOVE and DAYS…瞬きのように
お母さんは食器を流し台に置くと、バッグと鍵を手に取った。
「莉子、さっき何か言いかけた?」
「……ううん」
「そう。じゃあ、行ってくるね」
行ってらっしゃい。
と、すでに閉まりかけているドアに向かってつぶやいた。
「タコ焼きいかがですか~?」
「2-B教室でおばけ屋敷やってま~す!」
校庭に響く呼びこみの声。
並んだ屋台の前を交差して行き交う人たち。
他校の生徒もちらほら混じったその光景を、あたしはひとり、2階の音楽室から見下ろしていた。
校舎の端にあるこの音楽室は、今日は使われていないから誰も来ない。
なるべく人に会いたくないあたしには、格好の隠れ場所だった。
「はぁー」
窓におでこを当ててため息をつくと、ガラスが白く曇った。
健吾、今ごろ何してるんだろう。
連絡くれないってことは、あたしとの約束はもう無効ってことだよね。
「はぁー……」
さらに長いため息を出した、そのとき。
後ろでガラガラと扉の開く音がした。