マリオネットは君と人間になる
彼女が直斗の妹だと知ったときは、一番に『似てないな』と思った。
明るくて気の強い直斗と、大人しそうで気が弱そうな彼女。
よく兄弟は似ていると聞くが、二人はちっとも似ていないと思った。
だから僕も、彼女を直斗の妹としてではなく、ただの一つ下の後輩として見ると決めた。
直斗を意識すると、どうしてもあの日のことを思い出してしまうから。
彼女は、あの黒猫のようだった。
僕の予想通り、彼女は僕の知らなかった「死にたい」という思いを胸に秘めていて。
なんとなく放っておけない、儚い存在。
目を離していると、すぐにいなくなってしまう気がした。
僕が助言をすると、餌を与えた黒猫のように簡単に懐いて。
彼女は澄んだ瞳の人間らしい笑顔を向けて、〝感情〟のない、人間じゃない僕の『おかげ』とか言っちゃって。
凄く、馬鹿馬鹿しかった。
でも僕は、人間を振る舞う僕を、周りと分け隔てなく接してくるのが……〝嬉しかった〟のかもしれない。
今にも壊れそうになっている彼女を、今度こそ、守ってあげなきゃいけないと思って。
けれど彼女は、あの黒猫ほど弱くはなかった。
本音を吐き出し、自分の足で立っていけるようになった彼女は、物語の後半に覚悟を決めたノアのように逞しく見えて。
彼女は泣きながら、僕が〝人間〟だと言った。
自分が周りとは違う人外の化け物だと思っていた僕を、同じ人間だと訴えかける彼女の姿は、オリビアを救うノアにそっくりだった。
……もしかしたら、僕は無意識に、ノアを彼女に、オリビアを僕自身に重ねて物語を書いていたのかもしれない。
ずっと、救われたかったんだ。
無理に笑顔を要求なんてされたくなかった。
『変だ』なんて言われたくなかった。
感情のない、ありのままの僕を受け入れてほしかった。
〝人間〟だって、誰かに肯定して貰いたかった。
そんなSOSの思いを込めて、この『そして僕らは人間になる』の台本を書き上げた。
——オリビアの前に、ノアのような存在が現れるのを願って。