マリオネットは君と人間になる
「それでもいいので、私の思いを、日野川先輩に知っておいて欲しかったんです」

 手を繋いだり、抱きしめられたり……は既にしたことがあったが、一緒にデートをしたり、キスをしたり。

 それらのことに、全く憧れないわけではない。日野川先輩の『特別』になりたいと思わないわけじゃない。

 けれど、それは叶うことのない願いだと知っているから。

「ただ、日野川先輩に知っていて、忘れないでいて欲しかっただけなんです。私が確かに、日野川先輩を〝好き〟になったこと。日野川先輩が卒業して、今までのように会えなくなってしまうのが〝寂しい〟と思ったこと。……もし、日野川先輩が卒業した後も私を忘れないでいてくれたら、私はとても〝嬉しい〟と思うこと」

 ノアにとっての希望がオリビアであるように、私にとっての希望は日野川先輩であるのだと。

 それを日野川先輩に伝えられただけで十分だ。

「……少し勘違いしてるみたいだけど、僕は卒業した後も、お人形さんから離れるつもりなんてないよ」

「……え?」

 日野川先輩が平然と告げた言葉に、今度は私が首を傾げる番だった。

「お人形さんは出会った当初より、だいぶ変わって強くなったと思うけど、なんかまだ放っておけないんだよね。卒業した後も、OBとして普通にお人形さんに会いに行くつもりだった」

 『演劇部に行くつもり』ではなく、『お人形さんに会いに行くつもり』。

 そんな僅かなことにも反応して嬉しく感じる私は、自分で思っている以上にだいぶ重症のようだ。

「それと、なんか勝手に終わらせようとしてるけど、僕はお人形さんの告白に対してまだ何も返事してないよね。こういうのって、告白された側が何かしらの返事をするものじゃないの?」

「それは……」

 正直、日野川先輩にフラれることを覚悟しての告白だった。

 日野川先輩の言う通り、日野川先輩に悲しい返事をされるのが嫌で、一方的に終わらそうとする思いもあった。
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