マリオネットは君と人間になる
私を除いた三人はてきぱきと二つの長机をくっつけて、こちら側に二つ、向かい側に二つと、計四つの椅子を並べる。
椅子と机を並べ終えると、三人は迷うことなくそれぞれの椅子に座る。
私も余った椅子に座るべきなのかと戸惑っていると、空いた席の隣に座っていた二つ結びの女子——室谷蓮に声をかけられる。
「水葉先輩もこちらにどうぞ」
「あ……ありがとう」
椅子を引いて、室谷さんの隣の椅子に腰を下ろす。
私の対面にはニコニコと笑みを絶やさない日野川先輩が、斜め前には金髪の男子——森優樹が座っている。
対面に座っている日野川先輩はともかく、室谷さんと森くんの視線がこちらに集中しているのが痛いほど伝わってくる。先程一通り自己紹介を終えたとはいえ、やはり二人とも私という異例な存在について気になっているのだろう。
正直私も、何故自分がこの視聴覚室——演劇部の部室にいるのか、疑問に思っている。
様々な思考が飛び交う沈黙。
それを破ったのは、日野川先輩のわざとらしい咳払いだった。
「それじゃあ、今日の部活を始めるよ。といっても、今日は短いミーティングで終わりだけどね」
まさかの、私についての説明も何もなく演劇部の活動が始まる。
そのことについて何も言わないのかと室谷さんと森くんに視線を向けるが、二人の顔に困惑の色はなく、真剣な顔で日野川先輩に耳を傾けている。
私だけが置いてきぼりにされているようだった。
「出席確認。竹市は今日休みなんだよね?」
「はい。なんかクラスの係とかで、来られないそうです」
「そっか。それじゃあ、今日のミーティングの内容は——」
「まっかせてください! ちゃんと私が伝えておきますから!」
「頼んだよ。森は僕のお願い、聞いてくれてありがとうね」
「よく言うぜ。半強制だったくせに」
日野川先輩は胸を張る室谷さんと呆れたように息をつく森くんに向けて微笑み、机の横にかかった鞄から何かを取り出す。
それは、昨日室谷さんとぶつかったときに二人で集めた、大量の原稿用紙の束だった。左上が黒いクリップで留められていて、一番上の原稿用紙にはメモらしきものが書かれたピンク色の付箋が貼ってある。
「報告一つ目。昨日岡本先生に一通り目を通してもらったんだけど、特に問題ないって。だから予定通り、二月のVD祭はこの脚本でいこうと思う」
日野川先輩がそう言うと、室谷さんは嬉しそうにパチパチと拍手し、森くんは気だるげな声で「おー」と言う。
……なんで私、演劇部でもないのにこんなミーティングを聞かされているんだろう。
身の置き所がなく、いっそのことずっと俯いていようかなどと考えていると、ふいに正面の日野川先輩と目線が絡み合う。
「報告二つ目。役者は今まで通り僕が決めようと思うんだけど……今回の座長は、お人形さん——彼女にやってもらうことにした」
「……えっ」
不意打ちの座長発表。恐らくだが、これが今回のミーティングの本題だろう。
これには二人も驚いたようで、ぱちぱちと目を瞬かせている。当の本人である私も。