マリオネットは君と人間になる


 森くんは、私の知らない演劇部の活動内容について教えてくれた。

 部員は日野川先輩、森くん、室谷さん、竹市さん、そして新しく私を含めた四人で、顧問は岡本先生。

 前はもっと大勢の部員がいたのだが、訳あって今ではこのような少人数の部活になっているのだという。

 ちなみに室谷さんと竹市さんは四月に自分達の意志で入部届けを提出し、森くんは校内で先生を撒いていた際に、私と同じように日野川先輩にスカウトされて一学期の終わり頃に入部したのだとか。

 たいしてやりたい部活もなく暇つぶし程度に入部して、文化祭と秋大会で役者として出演したそうだ。

 活動日は休日と祝日を除いてほぼ毎日。部活動の決まりとして、顧問が出張などで校内にいない日は休みになるらしい。大会が近くなると、休日にも学校に来て部活を行うそうだ。

 部活での服装は特に決まっておらず、制服でもジャージでも自由。着替えはこの視聴覚室で行うため、入るときはノックが必須らしい。

 劇で使う大道具や衣装などのお金は部費から出されるが、どうしても足りない場合は集金があるという。

「え、集金って、私も含まれるの?」

「そうなるんじゃねーの? 一応水葉も正式な部員なわけだし。あ、気軽に水葉って呼ばせてもらうわ」

「詐欺だ……」

「水葉って、金に関することになるとケチなとこあるよなー。集金って言っても一人二、三百円程度だし、弁償代の三千円よりかは全然安いだろ」

 森くんはケロリとした顔でそう言い、私は小さくため息をつく。

 一応二、三百円程度なら財布の中に入っていたはず。

 これからは、今よりさらに所持金に気を使っていこう。

「それと私、演劇については何も知らないからね? 舞台の上で役を演じるとか、幼稚園のお遊戯会以来だし……多分皆が望んでいるような演技はできないよ?」

「あぁ、それなら大丈夫だろ。センパイが一からしごいてくれるから。あの人、めっちゃ笑顔で『うん。最初からやり直してみようか』とか鬼みてーなこと言ってくるから」

「声真似、結構上手いんだね」

「演劇部なめんなよ」

 ふいに森くんの口から出た一オクターブ高い声に目をぱちくりとさせていると、森くんにフッと鼻で笑われる。

「つい昨日まで帰宅部だったわけだし、スパルタなのは勘弁かな……」

「そんな心配しなくても大丈夫だって。俺もそこまで体力ねーし」

「それは嘘でしょ」

 先生と鬼ごっこをしていると言っていた森くんがそんなことを言っても、信じられるはずがない。

 すかさず私が突っ込みを入れると、森くんはケラケラと笑った。
< 26 / 138 >

この作品をシェア

pagetop