マリオネットは君と人間になる
「おーおー、またやってるのか。本当に仲がいいなお前ら」

「はいはい。通行の迷惑だから、夫婦喧嘩は他所でやってくれる?」

 手をぱんぱんと叩いて二人の奥から現れた日野川先輩。

 その後ろには、子供のような無邪気な笑みを浮かべる岡本先生が立っていた。

「夫婦じゃないし‼」

 室谷さんと森くんは息をぴったり合わせてそう叫ぶ。

 その姿は誰がどう見ても夫婦なんだよなぁ……。

 日野川先輩と岡本先生はいがみ合う二人の横を通って視聴覚室に入る。

 日野川先輩は椅子に座っている私に気がつくと、目を細めて笑った。

「昨日ぶりだね。お人形さん」

「人形?」

「彼女のあだ名みたいなものです」

「なんだ、もうそんな仲になったのか」

 日野川先輩はいけしゃあしゃあと岡本先生に説明する。

「違います、それは日野川先輩の一方的な嫌がらせなんです」と私が訂正しようとすると、それよりも先に大股で近づいて来た岡本先生がバンバンと私の背中を叩く。

 わりと痛い。

「いやー、まさか白樺がうちの部活に入部してくれるなんてな! 知ってると思うが、演劇部顧問の岡本だ。色々忙しくてあんまり部活には顔出せないけど、その分たくさん差し入れ持ってくるから勘弁してくれな」

 そう豪快に笑う岡本先生は、生徒思いの顧問というより子供思いの父親のような雰囲気を漂わせている。

 ……そんな嬉しそうな顔をされたら、何も言えないじゃないか。

「あれ、竹市は? 今日は来るんじゃなかったっけ?」

「台本を製本しに行ってる。そろそろ戻ってくる頃なんじゃねーの?」

 夫婦喧嘩に一区切りがついたのか、ばつが悪そうに首裏をかく森くんと、むっと口を尖らせた室谷さんが歩いてくる。

「そっか。じゃあ今日はさっそく、皆で台本読みをしよう。岡本先生もそれでいいですよね?」

「あぁ、もちろん! 役者が全員決まって、これが初めての台本読みになるんだろ? 職員会議までまだ時間もあるし、ぜひ俺にも聞かせてくれ」

 そうして、本日の活動内容が台本読みに決まった。

 日野川先輩の指示のもと、長机を全て部屋の後ろに下げて、人数分の椅子を円の形に並べ始める。
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