マリオネットは君と人間になる


 竹市さんが日野川先輩と室谷さんの間の席について、各々が自分の台本を開き始める。

 私の左右の椅子に座る森くんと室谷さんも台本を開き、蛍光ペンを出して台本に線を引いていく。

 その様子を見て、慌てて私も自分の台本に視線を落とした。

 太字で『そして僕らは人間になる』というタイトルと、作者である日野川先輩の名前が印刷された表紙をめくる。

 次のページには登場人物の名前と簡単な特徴が書かれていて、その次のページには開幕という文字からセリフが始まっている。

 ええっと、私の役は確か……。

 先程室谷さんに告げられた主人公の名前を思い出し、セリフの上に書かれた自分の演じる役の名前を黄色い蛍光ペンで線を引いていく

 わかってはいたけど、他の役に比べて座長のセリフは多い。最初のセリフも、最後のセリフも私の担当するセリフだ。

 これらを全部覚えることができるのかと不安を覚えながら、最後のページまで自分のセリフを確認していく。

 一通り線を引き終えて顔を上げると、向かいの椅子に座っていた日野川先輩と目が合う。

どうやら皆が各々の確認を終えた中、最後まで線を引いていた私を待ってくれていたようだ。

「終わった?」

「い、一応は……」

「そう。じゃあ台本読みを始めようか。とりあえず今日は製本して最初の台本読みだから、皆、途中でつっかえてもそのまま最後まで続けて読んで。読みにくかったり、違和感があったりするとこは、台本読みが終わった後に聞くから」

 日野川先輩はぐるりと全員の顔を見回して言う。

「皆、準備はできたね? それじゃあ台本読み始めまーす」

 日野川先輩はパンッと手を叩き、視聴覚室に乾いた音が響く。それと同時に、竹市さんの手元から短い電子音が鳴った。

 いつ読み始めたらいいのかわからずにおろおろしていると、竹市さんはちらりとこちらに視線を向け、呆れたようにため息をつく。

その隣の日野川先輩に「どうぞ」というジェスチャーをされ、私はゆっくりと唇を開いた。
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