マリオネットは君と人間になる
 怜花はタワーの頂上までの螺旋階段を上がり始める。それから少し遅れて、守も。

 頂上まであと少しと言うところで、怜花は守に追いつかれる。守は暴れる玲菜を押さえつけ、怜花の思い出せない記憶の先——この世界の真実を語る。

「離して! 話してよっ‼ 嘘つき‼ 触んないでっ‼」

「ちゃんと話すから……っ! 僕の話を聞くんだ、怜花っ‼」

 上の世界——怜花が暮らしていた地上の世界は、未知のウイルスの流行によって滅びた。

 怜花の両親は優秀な科学者で、アンドロイドの研究をしていた。何としてでも怜花を生かそうと考えた両親は、命懸けで怜花をアンドロイド達の過ごす地下都市——守達の世界に送り込んだ。

 真実を知って絶望することが無いように怜花の記憶を消し、アンドロイドの家族を与えた。

 怜花は怜花のために用意された世界で、優しい嘘に守られ、今日まで生きてきたのだった。

「それでも……怜花は、行くの?」

「……うん。それを知ったからには、尚更元の世界に帰らないと。人類はまだ滅んでいない。私が生きてる。私が……皆の、意志を引き継がなきゃ」

「僕らを殺してでも?」

「それは……」

 守達アンドロイドは、地上の酸素で簡単に錆びてしまう特殊な金属で作られている。怜花の両親がいない今、地下都市に酸素を入れないで地上への出入り口を開ける正式な方法は分からない。

 怜花が地上の世界に帰ること——それは即ち、守達の世界の終焉を意味する。

「……なんてね。端から僕らに命なんてない。早く行きなよ」

「守……っ」

「早く行きなよ。急がないと、父さん達が来ちゃう」

「……ありがとう。守」

「それを言う相手は僕じゃないでしょ? 怜花のためにこの世界を用意したのは、怜花の両親なんだから」

「ううん。守にも、守達にも言う言葉だよ。今まで一緒にいてくれて……本当の家族と変わらない愛情をくれて、ありがとう」

 怜花にそう言われた守は、最後に、一つの我儘を言う。

「……ねぇ、怜花。最後に、僕のお願いを聞いてくれる?」

「何?」

「もう一度……〝姉さん〟って、読んでもいい?」

「……いいよ。最愛の弟のお願いは、ちゃんと叶えてあげるのがお姉ちゃんとしての務めだからね」

「大好きだよ。姉さん」

「私も。大好きだよ、守」
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