マリオネットは君と人間になる
昼食を終え、各自荷物を持って体育館にやってくる。体育館では二面に分かれてバスケ部とバトミントン部が練習をしていた。彼らの邪魔にならないように体育館の隅を通りながら、緞帳が下がったステージの中に入る。緞帳越しでも掛け声などの騒がしい声が聞こえて、こんな中で練習ができるのか不安になる。
この高校のバスケ部とバトミントン部は全国大会にも出場するレベルのため、こんな小規模な演劇部が文句を言うことはできないのだけど。
「大道具通るぞ~」
大道具の一つである木製のベンチを持った岡本先生と森くんがステージ端の階段を上がってくる。その道を開けながら、私は室谷さんと上手の舞台袖で小道具の確認をする。
「日傘に食器、招待状の封筒、スカーフ……ってほとんど私の使うやつばかりじゃないですか! これ、本番は私が全部舞台袖から持って来なきゃいけないんですよね……」
「私も出番がないときは手伝うよ」
「ふふっ。嬉しいですけど、私が舞台に立っている間、水葉先輩もずっと舞台にいるじゃないですか」
「あ……」
そうだ。私が舞台袖にはけるのって、暗転とか、場面切り替えの一瞬だっけ。その一瞬も大道具の移動で忙しいから、室谷さんを手伝える時間はない。
……今まで演劇って観客の立場からしか見たことがなかったけど、いざ出演者の立場になってみると、本当に忙しいんだな。
改めてそう思っていると、ふいに上手で音響機材の準備をしている竹市さんが視界に入る。
一つの音響機材に黒いケーブルがいくつも刺さっている。まだ音響機材のことは詳しくないが、きっとあのどれか一つでもなくなったら、満足に音楽を響かせることができないのだろう。
「……あれ? そういえば、私が壊しちゃったケーブルってどうなったの?」
「予備の古いケーブルで代用しています。今年の部費は結構かつかつなので、新しいケーブルは来年買おうってことになったんですよ」
室谷さんにそう説明され、私は一安心する。
よかった。予備があったんだ……。
ここまで練習してきたんだもん。私のせいで音響がなくなり、劇の迫力が削がれてしまうなんてことになるのは嫌だった。
岡本先生は体育館の二階にある照明ブースに着いたようで、日野川先輩とトランシーバーで話しながらステージの照明をカチカチと点けたり、消したりする。
舞台袖の蛍光灯は点いているため、向かいの舞台袖——下手に置かれたベンチなどをぼんやりと確認することができたが、まだ昼間だというのに緞帳の締め切ったステージはとても暗くなる。
「……よし。大丈夫そうです。それじゃあこれから一度通してみるので、岡本先生はそこに待機していてください」
照明ブースの窓から両手で大きな丸を作る岡本先生が見える。
すると日野川先輩は、今度は竹市さんの方を見て、音響の確認を行う。
ドアの開く効果音や音楽がステージに響き渡る。音響で流す音楽はどれも初めて聞くはずなのに、なんとなくどの場面で流す音楽なのか、わかる気がした。
「さっすが莉帆! センスある選曲してきたね~!」
室谷さんと共に音楽に聞き惚れていると、あっという間に音響の確認が終わったようで日野川先輩がパンパンと両手を叩く。