マリオネットは君と人間になる
「……大丈夫だよ。森くん」

 優しすぎる彼に、私は決まった答えを返す。

 森くんに話せば、きっと心と体が楽になる。

 でも、今回はそれだけじゃダメなんだ。解決策を見つけなきゃ。

 これは私の〝トラウマ〟だから。

 この〝トラウマ〟をどうすれば克服できるか。その方法を見つけられるのは、この世界でただ一人、私だけだ。

「……俺は、いつでも力になるからな」

 私の思いを知ってか否か、森くんは無理に聞き出そうとはしてこない。私は今日も彼の優しさに漬け込み、彼から顔をそらす。

 ……本当に。私には、今の森くんが眩しすぎる。

「二人で何ピリピリしてるの?」

 絶妙なタイミングで、私達の間に日野川先輩が入ってくる。

 この場から抜け出すちょうどいい口実ができたと思い、私は日野川先輩を見て言う。

「別にピリピリなんかしていませんよ。確か、次は合宿所で自由時間でしたよね。行きましょう」

 第二校舎の横の二階建ての小さな建物。そこが、この高校の全部活動が合宿所と利用している場所だった。一階と二階で二つずつの和室があり、この冬季合宿では二階の和室を演劇部が利用することになった。

 ちなみに一階は天文部が利用している。今晩、部員全員で天体観測するらしい。

「そのことなんだけどさ。さっき岡本先生が『夜は銭湯が混むから早めに行こう』って、急遽今から行くことになったんだよね」

「え? 今から?」

「そう。今から」

 今からって、まだ四時を過ぎたばかりですけど……。

 日野川先輩は笑顔で私の言葉を繰り返し、その横で森くんは額に手を当ててため息をつく。

「あの人は本当に……」

「そういうことだから、二人も早く着替えとか取りに行こう。岡本先生、もう車に乗ってスタンバイしてるみたいだから」

 日野川先輩に急かされて、私達は慌てて合宿所に荷物を取りに行った。
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