マリオネットは君と人間になる
熱いお湯で汗を流し、学校指定の紺色のジャージに着替える。パジャマには就寝する直前に着替えるらしく、お風呂上りにジャージを着るのはなんだか新鮮だった。たったそれだけのことで、合宿という特別な感じがする。
老舗銭湯からの帰り。岡本先生はケーキ屋に寄って、丸いホールのチョコレートケーキを買ってくれた。
合宿所に戻って夕食のコンビニ弁当を食べた後。ケーキを五等分に切り分けて、皆で校内の自動販売機で買ったジュースで乾杯した。
久しぶりに食べるケーキは本当に甘くて、美味しかった。
何より、ケーキの上に乗ったチョコレートのプレートとサンタの砂糖菓子をかけて室谷さんと日野川先輩が本気でじゃんけんをしたり、今日のために作ったという竹市さんのクッキーを食べたり、岡本先生の一発芸を見たり、森くん企画のカラオケ大会が始まったり……皆でわいわいと過ごすこの空間が、とても楽しかった。
ケーキを食べ終えた後もその盛り上がりが絶えることはなくて、そのままトランプでババ抜きをしたり、UNOをしたり、人狼ゲームをしたりして遊んだ。
「水葉先輩、騙されないでください! 狩人の莉帆を殺した人狼は日野川先輩です!」
「でもさ、室谷は三日目に予言者の岡本先生に投票してたよね? 室谷が本当に村人陣営なら、そんなことはしないと思うけどな。ね? お人形さん」
「えっと……室谷さん、ごめんなさいっ」
「あぁ~っ‼」
人狼ゲームは、人狼の日野川先輩が勝利した。演劇部だからか、皆ポーカーフェイスが上手くて、私は最後まで人狼を見極めることができなかった。
あっという間に消灯時刻の十時になり、私、室谷さん、竹市さんは隣の和室に戻る。
冬用のもこもことしたパジャマに着替えて、押入れからそれぞれの布団を出し、畳の上に川の字のように敷く。部屋の右端が私で、真ん中が室谷さん、左端が竹市さんだ。
室谷さんは枕を見て思い出したのか「枕投げしましょうよ!」と騒ぎ出すが、竹市さんに「ここの壁は薄いから、うるさくすればすぐに岡本先生にバレちゃうよ」と止められる。
竹市さんの言う通りで、先程から下の階で天文部が騒いでいる声が二階まで聞こえてくる。天文部は天体観測を行うため、演劇部より消灯時刻が遅いのだろう。
室谷さんは子供のように頬を膨らませ、布団に潜り込んでふて寝する。竹市さんは室谷さんを見てやれやれと肩を竦める。
「白樺先輩も、もう電気消しますよ」
「うん」
竹市さんは私の返事を聞くと、カチカチと電気の紐を引く。
いつもより白っぽい豆電球の灯りに照らされながら、布団の中に入る。
「……おやすみなさい」
すぐ側からくぐもった声が聞こえる。恐らく室谷さんの声だろう。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
なんか、こうやって挨拶が返って来るのっていいな。目を閉じても、一人じゃないって思える。