マリオネットは君と人間になる
 しばらくして呼吸が落ち着く頃には、背中を擦っていた手は、トントンと赤子をあやすようにリズムよく私の背中を叩いていた。

「言えるじゃん。君の本音。やっと〝人間〟になれたね」

 日野川先輩の体にもたれかかって、独特な表現を含んだ言葉をぼんやりと聞きながら、いつの間にか強く握りしめていた日野川先輩の背中部分のジャージを離す。

「……日野川先輩」

「うん?」

「私……どうしたら、いいんでしょうか」

「うーん、そうだなぁ……」

 日野川先輩は勿体ぶるような口ぶりで言う。

 けれど、本当は……きっと日野川先輩も、私自身も、この悩みの解決策を知っている。

 あのときと同じだ。

 日野川先輩が私を物語の世界に連れ出してくれて、その物語の世界に勇気を貰って、お母さんに我儘を言ったあの日と同じ。

「君は、これからどうしたいの? 我慢なんてしないで、今まで何が欲しかったのか、これから何が欲しいのか、言ってごらん」

 私の、欲しいもの……。

 我儘は言えないからって、ずっと隠していた、黙っていたもの。

 ずっと欲しかった、ずっと貰いたかったもの。

 それは——。

「……愛、されたい。私は、捨てられる恐怖を……親から愛されない孤独を、知ってしまったから。それらを全部、忘れられるくらい……ちゃんと、愛してもらいたい」

 ずっと、怖かった。ずっと、その恐怖をかき消せるだけの愛情が欲しかった。

 今までずっと一緒に生きてきた、私の大好きな……家族から。

 日野川先輩は指先でくるくると私の髪を弄りながら、私の思った通りの言葉を口にした。

「それならその本音、ちゃんと声に出して伝えたらいいんじゃない?」
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