マリオネットは君と人間になる
「えっ⁉ 水葉、どうしたの? 合宿で何かあったの?」

 お母さんは私の前でおろおろとして、私の頬に手を伸ばす。その手が頬に届くよりも先に、私は正面からお母さんに抱きついた。

 お母さんは少し狼狽えた後、何も言わずに私の背中に手を回し、頭を撫でてくれた。

 泣きながらお母さんの胸に飛び込むなんて、何年ぶりだろう。

 ……やっぱり、お母さんの腕の中が、一番落ち着く。

「……お母さん、あのね」

「どうしたの?」

「私……お父さんとお母さんが離婚してからね、ずっと、怖かったの。お父さんみたいに……お母さんにも、愛されなくなったら、捨てられたら、どうしようって。それが怖くて……一人でいるのが、寂しくて」

「水葉……」

 お母さんのエプロンを握り締め、必死に言葉を紡ぐ。

 ずっと我慢してきたこと。ずっとお母さんに聞いてほしかったこと。

「我儘だって、わかってるの……。でも、それでも、もう少しだけ、家にいてほしい。家の手伝いでも、なんでもするっ。だから……っ、もっと、ちゃんとね、私のこと——」

「愛しているわ。水葉」

 お母さんは私を強く抱き寄せて言った。

 私のずっと欲しかった言葉を、はっきりと。

「愛してる。大好きよ。私が、このお腹を痛めて産んだ子だもの。本気で嫌いになんて、なるはずがないじゃない」

「お母、さ……っ」

「今までずっと辛い思いをさせて、ごめんね。……こんな親の元に、産んでしまってごめんなさい」

 お母さんの声が震え出し、私を抱きしめる腕の力が強くなる。

「水葉と直斗には、重た過ぎるものを背負わせてしまった。知らなくていいはずのことも、たくさん吸収させてしまった。……水葉。私はね、ずっと後悔していたの。あの人を愛してしまったのも、水葉の笑顔や直斗のお喋りを奪ったのも、二人の人生を台無しにしてしまったのも、二人の心にこんなにも深い傷を負わせてしまったのも、全部私のせいなんじゃないかって」

 お母さんは私の存在を確認するように、強く抱きしめたまま続ける。

「二人にどんな顔で、どう接していけばいいのかわからなかった。……でも、二人がどんなに私のことを恨んでいたとしても、私は二人の母親だから。今まで辛かった分、二人に幸せをたくさん届けられるようにって、仕事を増やしてきた」

「お母さん……」

「でも、ダメね。それで水葉を不安にさせていたなら、本末転倒だわ。母親失格ね、私」

「そんなこと、ない……そんなことないよっ」

 お母さんのせいだなんて、そんなふうに思ったことは一度もない。
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