翡翠の森
・・・
一方、その頃。
「ロマンティックですわね……」
恍惚としたエミリアに、ジェイダは困惑していた。
あの後兄弟と別れ、自室に戻った途端に、ロイとの馴れ初めを聞かせてほしいとねだられたのだ。
『な、馴れ初めと言うか、始まったばかりと言うか、まだ何も始まってないと言いますか……』
『もう、隠さないで下さいな! 大恋愛だと伺っております。教えて下さらないなら、ロイ様にお聞きして想像の補完を……』
『だ、ダメ! い、言いますから!! 』
……という訳で。
初対面であるし、事前に忠告されているのもあり、もちろん全て話したのではなかったが。
「運命的ですね。いえ、周囲の状況は深刻だと理解しておりますが。……わたくし達も、お二人のようになれるかしら……」
ロイとは恋人関係ではないが、そこは否定しないでいた。
したくない気持ちもあるし、エミリアの言葉が気になったからだ。
何かを諦めたような、それでいて何かを渇望しているような。
それはまるで、夫からの愛情を待ち望んでいるかの如く。
「こういう婚姻ですから、わたくし個人をご覧になったのではありません。お選びになるうえで、何かの利点があったのでしょう」
「エミリア様……」
アルフレッドは“洗った”と言った。
それがどういう判断基準だったのか、ジェイダには分からない。また、知る必要もないのだ。
(でも、エミリア様は違うのね)
「当然のことですわ。それでもそれ以上のものを、わたくしはあの方に差し上げることができるのかと……」
彼女は理解してしまっている。
取り巻く状況がどうあろうと、理解せざるを得ないのだ。
「そもそも、陛下はお望みにならないかもしれませんのに、こんなことを考えるなんて……馬鹿ですね」
泣き笑いになるエミリアに、ジェイダはゆっくりと首を振った。