翡翠の森
ロイは天井を仰ぎ、そしてジェイダに視線を戻す。
「……どうかな。アルは乱暴をするような男じゃない。それは誓って言えるけど……今夜何もないことが、エミリアにとっていいことなのか。あまりそういうことが続くと、彼女が悪く言われてしまうかもしれないからね」
本当に愛情の問題ではないのだ。
少なくとも今は。
「ジェイダ。あまり感情移入しないで」
まるで子供に教えるように、ロイがゆっくりと言葉を発音する。
「エミリアはいい人かもしれない。……でも、僕らには彼女の後ろにあるものは、まだ見えていないんだ」
ロイやアルフレッドもそう。
彼ら自身でいられる時間は、こんなにも短い。
こうしている今ですら、第二王子としての意見を述べなくてはいけないのだから。
「そんなもの、存在しないのかもしれない。アルだって、その可能性を捨ててはいないからこそ彼女を選んだ。けど」
必死で伝えようとするロイの手に、ジェイダはそっと自分のものを重ねた。
「……ごめんなさい」
エミリアの背中を見送ったロイ。
どんな思いで、この部屋を訪れたのか。
「私、お似合いだと思う。楽観的過ぎてごめんね」
(……二人が幸せになりますように)
お互いの気持ちを無視した結婚が、覆せないのだとしたら。せめて、そう願っていたい。
『それ以上のものを、差し上げることができるのか』
エミリアはそう言ったのだ。
いつかそれが、アルフレッドが受け入れる日がくれば。
(……勝手だ。ただの私のわがまま)
「そう? 僕たちには負けるよ」
ジェイダの本心など、お見通しなのだろう。
あやすように、軽く背中を叩いてきた。
「ロイ」
嫌なことを言わせてしまった。
彼だって、また選ばされたにすぎないのだ。
兄と国の安全の為に、エミリアを疑うという道を。